空気式防舷材
空気式防舷材は、空気の圧縮弾性を利用した形式ですので軽量で水に浮き、取扱いが簡単です。
60年以上にわたり、船舶同士の洋上接舷をはじめ、岸壁、ドルフィンなどへの接舷用としても広範囲に採用されています。
【用 途】 船舶接岸係留時および船舶の洋上接舷時の緩衝材
【使用方法】 岸壁または洋上接舷からの係留により水面に浮かべての使用
【設置場所】 港湾、漁港、潮沼、河川、造船所、洋上(港外)
特 長
- 空気の圧縮弾性を利用
空気式防舷材は、V型などのソリッドタイプの防舷材と異なり、空気の圧縮弾性を利用して船体や岸壁を損傷させにくい低反力、高吸収エネルギーの防舷材です。
- 接触面が大きく、面反力が小さい
防舷材は、反力が小さく、高吸収エネルギーのものが望まれます。しかし、防舷材と接触する接触面あたりの反力が高くては、船舶に悪影響を与える可能性があります。
空気式防舷材は、接触面積が非常に大きく、他の防舷材と比較して、面反力が、118kN/m2(12tf/m2)と低面反力の防舷材です。
- 傾斜接岸に対応可能
船舶は、接岸時にある角度をもって接岸します。その際、防舷材は傾斜圧縮を受ける事となりますが、V型防舷材のようなゴムの弾性変形を利用している防舷材は、傾斜により性能低下が発生します。
しかし、空気式防舷材の場合、傾斜による性能低下が少なく、あらゆる状況にも対応できます。
- 船舶同士の接舷に利用可能
海上または造船所内への艤装岸壁において、船舶同士を接舷する(船舶間に一定距離が必要な)場合に利用可能です。
船舶同士の接舷
- 潮の干満差、船舶の動きに追従
空気式防舷材は水に浮くため、潮の干満差に影響されず、常に最適の位置で防舷材としての機能を発揮します。また、形状が丸く、船舶の上下運動に対して回転しながら追従できるため、摩擦抵抗も少なく、船舶の塗装面を傷つけにくい構造です。
これにより、港湾や漁港などにおける船舶接岸用としてだけでなく、洋上での船舶同士の接舷用としても世界中の様々な分野で利用されています。
- 取り付けが容易
空気式防舷材の取り付けは、岸壁あるいは船舶へロープまたは、チェーンで係留するため、取り付けは非常に容易で施工費用も軽減できます。
空気式防舷材のタイプ・構造
当社空気式防舷材は、当社オリジナルタイプに加え、ISO17357-1(2014)に適合したISOタイプの2タイプをラインナップしています。
オリジナルタイプ
小型から大型まで数多くのサイズをラインナップ可能であり、利用環境に応じたサイズ選定が可能です。
規定内圧 : 0.04MPa
係留の形式
空気式防舷材は、対象船舶や利用環境に応じて、以下の係留形式をラインナップしています。
- チェーンネット式
チェーンネットと呼ばれる、チェーンで構成されたネット状部材に、タイヤとゴムスリーブを取り付けた保護ネットで防舷材を係留する構造です。
防舷材の係留は、チェーンネットの端部金具を介し、岸壁に設置します。
中サイズ以上の空気式防舷材に対応します。
他の形式に比べ、防舷材本体の保護機能が高く、最も耐久性が高い係留形式です。
- ロープネット式
ロープネットと呼ばれる、ロープで構成されたネット状部材に、ゴムスリーブを取り付けた保護ネットで防舷材を係留する構造です。
防舷材の係留は、ロープネットの端部を介し、岸壁に設置します。
小~中サイズの空気式防舷材に対応します。
チェーンネット式に比べ防舷材本体の保護機能は高くないですが、コンパクトで軽量なため、小型船などが利用される岸壁に適しています。
- 一点吊り式
防舷材の両端に設置された係留用金具を介し、防舷材を係留する構造です。
他の形式に比べ防舷材本体の保護機能は高くないですが、最もコンパクトで軽量なため、船体への搭載利用に適しています。
- その他の形式
船体への色汚染防止を目的にキャンバス布で覆った形式や、白色やグレーなどの空気式防舷材も用途で応じて生産可能です。
空気式防舷材 設置における注意事項
岸壁に設置して使用する場合、チェーンネット式かロープネット式をご使用ください。
規格サイズ・性能・質量
サイズ Φm×Lm | 反 力 (kN) | 吸収エネルギー (kN・m) | 質 量(近似値) | ||
チェーンネット式 (kg) | ロープネット式 (kg) | 一点吊り式 (kg) | |||
Φ0.3 | 8.53 | 0.49 | – | 4.5 | – |
Φ0.4 | 15.2 | 1.08 | – | 7.5 | – |
Φ0.45 | 19.2 | 1.57 | – | 9 | – |
Φ0.5 | 23.7 | 2.16 | – | 12 | – |
0.5×1.0 | 54.2 | 4.81 | – | 35 | 40 |
0.5×2.0 | 115 | 10.1 | – | 57 | 60 |
0.6×1.2 | 77.9 | 8.24 | – | 44 | 50 |
0.7×1.5 | 115 | 14.1 | – | 61 | 62 |
1.0×1.5 | 156 | 27.6 | 340 | 83 | 93 |
1.0×2.0 | 217 | 38.3 | 410 | 110 | 120 |
1.2×1.8 | 225 | 47.7 | 450 | 120 | 130 |
1.2×2.0 | 253 | 53.8 | 470 | 130 | 140 |
1.3×2.5 | 350 | 80.3 | 570 | 170 | 170 |
1.35×2.5 | 362 | 86.2 | 585 | – | 180 |
1.5×2.5 | 396 | 105 | 740 | – | 230 |
1.5×3.0 | 487 | 129 | 890 | – | 270 |
1.7×3.0 | 542 | 163 | 960 | – | 390 |
2.0×3.0 | 623 | 221 | 1,220 | – | 450 |
2.0×3.5 | 745 | 263 | 1,440 | – | 510 |
2.2×4.5 | 1,080 | 417 | 1,830 | – | – |
2.5×4.0 | 1,050 | 464 | 1,920 | – | – |
2.5×5.0 | 1,350 | 597 | 2,300 | – | – |
2.5×5.5 | 1,500 | 663 | 2,470 | – | – |
3.0×5.0 | 1,580 | 840 | 3,290 | – | – |
3.0×6.0 | 1,950 | 1,030 | 3,910 | – | – |
3.3×6.5 | 2,320 | 1,350 | 4,880 | – | – |
3.5×7.0 | 2,650 | 1,640 | 6,070 | – | – |
サイズ Φm×Lm | 反 力 (kN) | 吸収エネルギー (kN・m) | 質 量(近似値) | ||
チェーンネット式 (kg) | ロープネット式 (kg) | 一点吊り式 (kg) | |||
0.5×1.0 | 82.5 | 7.96 | – | – | 35 |
0.8×1.2 | 152 | 23.5 | – | – | 65 |
1.0×1.5 | 237 | 45.9 | – | – | 105 |
1.2×1.8 | 341 | 79.2 | – | – | 145 |
2.0×3.0 | 950 | 367 | – | – | 450 |
各種特性試験
耐久試験
サイズ : Φ200×300L
内部圧力 : 80kPa
変位量 : 60%
繰返圧縮 : 3,000回
傾斜圧縮試験
サイズ : Φ200×300L
内部圧力 : 80kPa
変位量 : 60%
傾斜角度 : 0°,6°,12°
圧縮速度(傾斜角度0°) : 56.7mm/min
圧縮速度(傾斜傾斜角度6°) : 54.1mm/min(長さ方向)
62.6mm/min(直径方向)
圧縮速度(傾斜角度12°) : 60.0mm/min(長さ方向)
80.0mm/min(直径方向)
空気式防舷材の選定(設計方法)
防舷材は、船舶が岸壁に接岸する際、あるいは船舶同士が海上で接舷する際に、船舶の接岸(接舷)エネルギーを吸収する必要があります。
船舶の有効接岸(接舷)エネルギーEf(kN・m)は、”港湾の施設の技術上の基準・同解説” に基づき、下記計算により算出します。
防舷材は、1基で有効接岸(接舷)エネルギーを十分に吸収できるサイズを選定します。
1)船舶の有効接岸エネルギー
Ef:船舶の有効接岸エネルギー(kN・m)
Ws:船舶の排水量(tf)
V :接岸速度(m/sec)
Ce:偏心係数
Cm:仮想質量係数
Cs:柔軟係数(1.0を標準とする)
Cc:バースの形状係数(1.0を標準とする)
※船舶の接岸速度は、対象船舶の船型、載荷状態、係留施設の位置及び構造、気象及び海象状況、曳き船の有無・大きさを考慮し、実測値又は既往の接岸速度の実測資料に基づいて定める。
2)仮想質量係数Cm
Cb:ブロック係数
B :船 幅(m)
df:満載吃水(m)
3)ブロック係数Cb
Ws :船舶の排水量(t)
Lpp:垂線間長(m)
B :船 幅(m)
df :満載吃水(m)
Wo :海水の単位体積重量(1.03t/m3)
4)偏心係数Ce
Ws:船舶の排水量(t)
ℓ :係船岸に平行に測った接触点から船舶重心までの距離(m)
r :水平面で船舶の重心を通る鉛直軸まわりの回転半径(m)
r=(0.19Cb+0.11)Lpp
ここで、係船岸に平行に測った接触点から船舶重心までの距離ℓ(m)は、式(5)及び(6)より算出したL1、L2の内、小さい方(偏心係数Ceが大きくなる方)をℓとします。
L1 :船舶が防舷材F1に接触するときの係留施設に平行に測った接触点から船舶の重心までの距離
L2 :船舶の防舷材F2に接触するときの係留施設に平行に測った接触点から船舶の重心までの距離
Θ :接岸角度
Lpp:垂線間長
e :船の長軸方向に測った防舷材間隔と垂線間長との比
α :防舷材との接触点高さにおける船舶の側面の平行舷(パラレルサイド)の長さと垂線間長との比
k :防舷材F1とF2の間において船舶と係船岸が最も近づく点を表すパラメーター(一般的に0.5)
ただし、空気式防舷材が上図のように連続して設置される事例は少なく、多くの場合、船舶は空気式防舷材を目標にして接岸します。
そのため、弊社では空気式防舷材を連続して設置しない場合、船舶の接岸位置がP付近となる(1/4点接岸)ことから、ℓ≒rの関係より、Ce=0.5と仮定しています。
性能計算
空気式防舷材は、空気が圧縮性流体であることを、利用したものです。空気の圧縮性流体は、近似的にPVn=一定という式で計算できます。
このPVn=一定、すなわちポリトロープ変化n=1.4で、空気式防舷材の性能も計算できます。
防舷材の初期内容積がVo、圧力がPo(ゲージ圧)だったものが、船舶が接舷してたわみ、変位量がXになり、そのときの内容積がVx、圧力がPx(ゲージ圧)になったとすると、
の関係が成立します。また、そのときの接触面積をSxとすると、そのときの反力はRx
で表されます。
したがって変位量Xのときの吸収エネルギーExは、次の式で表されます。
しかし、実際の圧縮時には防舷材本体に伸び、たるみなどが発生し、理論値よりもVxが大きくなることでPxが小さくなり、Sxが大きくなります。
そこで弊社では、より正確な性能を推定するために理論値を参考にして模型実験を行い、それに基づいた性能の推定計算をしております。
使⽤上の注意事項
- 空気式防舷材は、空気漏れやパンク状態で使⽤した際には⼗分な緩衝機能を発揮出来ず、船舶と岸壁が直接接触するなど、重⼤な事故につながる危険性があります。
- 空気式防舷材の内部には圧縮空気が充填されています。破裂した際には、周辺の⼈に怪我を負わせる可能性があります。
【警告】 重⼤な事故が起こる原因となります。
- 空気式防舷材の使⽤範囲以外で使⽤しないでください。
- 空気式防舷材の標準反⼒および標準吸収エネルギー内で使⽤してください。
- 空気圧が規定内圧より⾼い場合、破裂の可能性がありますので、使⽤前には規定内圧を超えていないか確認してください。規定内圧を超えている場合には別紙「取扱説明書」に⽰す⽅法で規定内圧に調整の上、使⽤してください。
- 製品に損傷がある場合、破裂の可能性がありますので、使⽤前には別紙「取扱説明書」に⽰す⽅法で、製品に損傷が無い事を確認してください。製品に損傷が確認された場合、使⽤を⽌め、下記お問い合わせ先までご連絡ください。
- あらゆる状況(運搬・移動・係留・接岸・保管など)において、空気式防舷材に突起物や段差部などが接触しないようにしてください。
- 定められた取付⽅法・取付位置を守って使⽤してください。
- 空気式防舷材を使⽤しない状況でも岸壁や船舶との接触で摩耗による損傷が発⽣する危険がありますので、⻑期間船舶が接岸しない場合や台⾵通過時などの荒天時は、陸揚げ保管してください。
- 空気が抜けた状態(へこんだ状態)での保管は、⻲裂等の劣化を早める原因となりますのでおこなわないでください。
- 保護ネットは消耗品のため、別紙「取扱説明書」に⽰す⽅法で点検して頂き、適宜取り替えて使⽤してください。
- 製品の改造および弊社から供給していない部材の取付は、製品が損傷する危険があるのでおこなわないでください。
- 弊社から供給されていない補修⽤品で補修しないでください。
- 別紙「空気式防舷材取扱説明書(詳細版)」の14 項「補修」に⽰す⽅法以外での補修はおこなわないでください。
使用上の注意事項(PDFファイル)はコチラからダウンロードできます。